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読んだ本 別冊太陽 堀文子 100歳記念 群れない、慣れない、頼らない 2018年11月 平凡社 [読書]


隣の書店で見つけました、パラパラめくると画風が2転3転大胆に変化します。

別冊太陽 堀文子.jpg

静物、植物、動物、人物、自然の造形、目に映るなにもかも、命の息吹、生命の輝き、敬意をもって描きとめる。優しく慈しむようなまなざしを感じる画です。


以下「 」〔 〕は本文より抜粋要約加筆。


すっごいわぁ!なんちゅう器用な絵描きはんでっしゃろ、と思いつつ文字の部分を辿ります。

「私は戦争に関係したくなかったので美に近づいた」。更には戦時下にあって、「絵を描いて生きていく決意をした」という、生涯を画業に捧げ百歳を生き切った女性の軌跡。

大正7年ロシア史の歴史学者の三女として生を受け、戦乱激動の世をかいくぐり、女一人、生きるために描くのか、描くために生きるのか、生きた証を描き続けた芸術家の生涯です。


残された文章、詩、言葉も絵画以上に心に響きます。

「この世の栄達とは無縁の、何の役にも立たず、出発点も終着点もない美の世界の虜となって、只一回きりの此の世を生きた自分の不思議を人ごとのように驚いている。」

「意識しているわけではないが、その時その時をどう生きているか、その痕跡を絵に表すので、一貫した画風が私にはないのだ。結果として画風が様々に変わって見えても、それらはすべて私自身なのである。」

「人のいのちで戦ってはいけない」

〔兄は中国で戦死、学徒動員された弟は満足な治療も受けられぬまま部隊で病死した。平河町の家は空襲で全焼、日本文化の粋を集めた調度のすべては失われた。戦後、一家の家計は堀の肩にのしかかることになる。〕

「 - それからの春 -
柏の連隊で急死した弟の骸(むくろ)を抱いて、連翹(レンギョウ)の咲く見知らぬ野を軍隊のトラックに乗せられて走っていた春。
結核で長く患っていた夫の死も、やはり連翹の咲く、早い春のことだった。
裸木の林に、ギブシの白緑色の花ぶさがさがる山道をわけて、セリや土筆を摘みに行くのが私の春のならわしになった。
思えば長い道のりであった。
萌えはじめる春の喜びの中に、血のにじむような悲しみのつきまとった胸苦しい時がいつの間にか私の心から消えていったようだ。
無心に花を尋ねる蝶のように、私も春に招かれてギブシに見とれ、土筆をさがしに行く。」

無念、慟哭、鎮魂、諸行無常、かくも心を打つ詩を私は知らない。

「一所不在」

「自信喪失の状態なんかから脱出しようと思いたって」「長年恐怖心さえ覚えていた西洋を自分の目で確かめたかった」
〔1961年よりエジプト・ギリシャ・ヨーロッパ・アメリカ・メキシコへと2年半にわたる旅。〕


「ものを創る人間は都会に住むべきではない」
〔1967年神奈川県中郡大磯町、高麗山の麓に転居〕


「残り時間の少なくなった私の、誰にも遠慮いらぬ山中独居」「浅間山の全貌が見えるこの土地に、私は一目ぼれし」
〔1979年長野県北佐久群軽井沢町にアトリエを持ち、大磯と行き来するようになる〕


「バブル時代の日本があまりに嫌で、イタリーに亡命しようと思ったんです」
〔1987年イタリア・トスカーナ地方の古都アレッツォ郊外にアトリエを持つ〕〔トスカーナは、素直に感動する幼児のような、無垢な心を堀に取り戻させてくれた〕


「旅での感動は私の眠っていた脳細胞に新しい回路を復活させてくれるのです」
〔1995~2000年七十歳も後半になり、念願のアマゾン・メキシコのタスコの、マヤ、アステカ遺跡・ペルーのインカ遺跡、マチュピチュ、ナスカ・八十一歳でヒマラヤの5000Mが産地というブルーポピーを追い求める〕
「様々な国を旅して、”風景は思想だ”と私は確信した。風景は自然を取捨選択し、その国の人々が作り上げた作品なのだ」
 
「 - 母、心の格式を失わず -
主婦に必要な整理能力、経済や時間のやり繰りの能力が欠如する一方、色や形の美しさ、音や味に異常に敏感な人だった。・・・・・庭仕事だけは好きで、夕食の支度も忘れ焚火の炎を見詰めていた母。
二人の息子の戦死、戦火で家屋敷を失う乱世を立派に生き抜き、心の傷を見せず愚痴を言わず天性の明るさと心の格式を失わず、母は九十八のあっぱれな生涯を終えた。一方、母の気質を受け継いだ私の辿った暮らしは、独り身の自由を背負い、風狂の旅人となり老年を歩き続けている。」

「息の絶えるまで感動していたい。」
本書最終ページの言葉です。
 
画家の生涯を描いた映画を観終えたた気分です。
感動と勇気を頂きました有難う御座います。

堀文子さんは2019年2月5日100歳でお亡くなりになりました。
ご冥福をお祈りいたします。
合掌
 
下のリンクはプレス用のプレリリース資料です。主要な作品が掲載されています、ある程度拡大しても鑑賞にたえます。

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別冊太陽 堀文子 100歳記念 群れない、慣れない、頼らない


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